lecturer talk
関本欣哉 (main lecturer) × 有馬かおる (guest lecturer)
いままでアートを鑑賞する立場だった受講者一人ひとりの中に、作家や作品(=アート)を「自分ごと」として見直していく視点を生み出し、街にアートをインストールしていくきっかけが生まれていくことを期待したこのプロジェクト。プロジェクトの企画立案に携わったメイン講師の関本欣哉氏(ギャラリーオーナー)と、宮城県石巻市街地にアートをインストールする実践を進めているゲスト講師の有馬かおる氏(アーティスト)に、街とアートの関係についてお話を伺いしました。
(聞き手:アイハラケンジ[本講座コーディネーター])
──まずは、成果展の全体的な感想を有馬さんから伺いたいと思います。
有馬:テクニカルな話ですが、商店街全体を使った屋外展示となっていましたが、拠点場所の確保が必要だったかと思います。当日は雪の影響もあり、土井ビル1Fがなんとなくの拠点として機能していましたが、このような屋外展示の場合、見に来た人たちへの情報提供の場所、すなわち「拠点」となるものがあると良いんですよね。こういう展示って、どこがスタートなのかとか分かりにくいじゃないですか。見に来た人たちが、どこで何時からどういった展示がやっているのかという情報が欲しいし、それがあることによって展示を見ることへのハードルがぐんと下がって、街に開かれた展示になっていくんじゃないかなと思います。
──街のひとたちに、どのようにアート見せていくかということですね。
有馬:もっと本質的な部分、作品のコンセプトであるとかアーティストの情報などが集約されてリファレンスできる場所という意味でもですね。屋外だったとしても、なんだかんだでやっぱり「展覧会」じゃないですか。様々な情報がバラけてしまうと見え方としてはもったいないですよね。展示の「始まり」と「終わり」を設定したりするだけでも、街のひとたちに対してアートの見え方が格段にわかりやすくなっていく。
関本:あと、コロナ禍の影響もあり展示の開催時期がずれてしまいました。冬の雪降る中での開催でした。
有馬:そうですね。屋外展示なので、こういったイレギュラーの対応がかなり難しい。これが全体をわかりづらくしてしまった一番の要因かもしれませんね。それはしょうがないとして、実際に予定していた秋頃の展示であれば、もっとわかりやすく展開できていただろうと思います。この企画自体はとても面白いと思うので。
有馬:そうですね。屋外展示なので、こういったイレギュラーの対応がかなり難しい。これが全体をわかりづらくしてしまった一番の要因かもしれませんね。それはしょうがないとして、実際に予定していた秋頃の展示であれば、もっとわかりやすく展開できていただろうと思います。この企画自体はとても面白いと思うので。
関本:この企画や展示自体はいかがでしたか?
有馬:とても可能性を感じました。もっとギャラリーの数を増やしても良いだろうし、もっとバリエーションなんかも出せんじゃないですかね。今回は「移動式」というフォーマットで揃えた展示となってましたが、もっと細かくギャラリーとしての「箱」のフォーマットを揃えるとか、縁日のお店のフォーマットで揃えてお祭り感を演出したりとか。話題はそれますが、個人的には、カフェ(Day & Coffee)が気になってました。
──単なるカフェではなくて、芸工大の卒業生がまちづくりに関わったプロジェクトですね。
有馬:ああいうお店があるということは、すでにこの商店街は、0を1にするというフェーズではないということ。どのプロジェクトでもそうですが、0を1にするのが一番難しい。でもこの商店街はこのカフェがあることで0→1のフェーズが完了していて、そこから先の展開というのがとてもやりやすいと感じます。これはとてもすばらしいことです。成果展当日何度か入ろうとしたんだけど、大人気で満席状態で結局入れなかったという...。しょうがないから、山形駅のロッテリアでお茶してました(笑)。
関本:屋外展示ということで、時間軸の変化(昼→夜)での見え方の変化も特徴的だったと思いますが、こちらはいかがでしょうか?
有馬:昼の部と夜の部に分けて展示を展開していくという可能性も見えて面白かったです。夜にやったライブパフォーマンスの展示(中谷×吉村)は、夜の街並みにマッチしていてとてもドラマティックな展開になっていました。雪降るなかで大変だったんだろうけど。あと、参加していたパフォーマーは芸工大の学生ですよね。こういう面白い学生が地域に根付いていくと、街とアートの関係はもっと深まっていくだろうと思いますね。
──芸工大も山形という地域に根付いてきているかとは思いますが、発表の場所が地域と絡んできているかというとまだまだの感じはありますね。
有馬:本来であれば、もっと街なかとかにアーティスト自らがアートの拠点をつくって作品を発表していくという流れがあっても良いとは思いますね。関本さんがいらっしゃる仙台ももっと水をまかないといけない状況はありますね。
関本:有馬さんが活動されている石巻はどうでしょう?
有馬:石巻は地元にいなくちゃいけないという人たちが活動しているという感じがありますね。東京に出ていくという状況がないので地元で頑張るしかない。逆に仙台だと東京に出やすいという条件もあって地元に根付きにくいのかもですね。
──それでいくと、山形はどういうふうに見えますか?
有馬:また話題がそれますが、東北にある種の「権威的」な場所、それこそ「求心力」のある場所があると良いのかなと思ってます。仙台だと関本さんがやっている「ターンアラウンド」を始めとした活動はある種の求心力と、良い意味での権威となってますが、もっと広く「東北」ということでの「権威」や「求心力」があると良いかなと思っています。先ほどの話に戻りますが、街にカフェがあったりして、すずらん商店街はすでに0→1の状況が出来上がっているというのはある種の「求心力」や「権威」を作っていきやすいので、とても強いと思いますよ。それこそ芸工大がコマーシャルギャラリーを作れば良いと思うんですけど(笑)。
──すずらん商店街でのアートプロジェクトは、前回の「山形ビエンナーレ2020」から始まりましたが、その流れを踏まえて、関本さんとしては今回のプロジェクトはどのように見ていますか。
関本:前回の山形ビエンナーレ2020での商店街のお店の中にアートが設置されていくという展開から、市民が自発的にアートで「街を使う」という展開にシフトしたという感じですが、先ほどの有馬さんのご指摘どおり、このあとここにどう「拠点」をつくっていけるのか、というのが重要なポイントになると思います。今回のような単発のプロジェクトのみでは商店街の人たちの意識付けはどうしても低くなってしまいます。継続的な展開にしていくにはやはり「拠点」が必要でしょうね。
──成果展当日は、雪の影響のためギャラリー待機場所として使用していた土井ビル1Fがなんとなく「拠点」的な雰囲気を帯びていたのが面白かったですが...。
有馬:そうそう。コロナじゃなければ、あそこでワイワイと一夜を明かしそうなノリになってましたね。アートの展示という目的を超えて、別の意味での人のつながりが発生していて面白かったです。
関本:市民による「ギャラリー」というコンセプトはどう見えましたか?
有馬:本人じゃなくて、他の人が作った作品を紹介しているというのが面白かったし、ギャラリーの躯体も必ずしも市民の人が作っているわけではなく、職人やデザイナーなど地元のクリエイターとの協働で出来上がっているというのも興味深かったです。みんなの力が合わされて出来上がっているという、リアルな社会の人間関係や縮図がそこに立ち現れていましたね。
──市民による「アート」活動というと、何かを制作するとかに行きがちですが、必ずしもそうではない「アート」の活動があるということを示せたと思いますね。
関本:表現をするアーティストは意外とどこにでもいるんですが、僕みたいな表現を発表する「場所」や人が集う「場所」をつくったりする人ってあんまりいないんですよね。お金と労力もそれなりにかかるので他の人に声もかけづらいという状況もあります。そういった中で有馬さんの石巻の活動はどうやって仲間を集めているんでしょう?
有馬:みんなはなんだかんだで、何らかのメリットや美味しい話を欲しているんですよね。石巻でいえば「リボーンアートフェスティバル」に結びつきやすいとか、僕が昔やっていた「犬山のキワマリ荘」であれば『美術手帖』のレビューに載ることができる、そういったある意味うまく「権威」を使っていける状況が用意できるかどうかだと思いますね。あと、アートに親和性のある領域と組むことでのメリットとか。
関本:なるほど。それは例えば音楽とかライブとかでしょうか。
有馬:そうそう。あとファッションとかもアートと親和性が高いですね。そういった人たちをアートの世界に巻き込んでいく。またその逆で、アートの人たちが音楽やファッションの領域に巻き込まれていく。そういうやり方で仲間を増やしていくというのは有りかもしれない。
関本:そうですね。もともと音楽の人たちとかって必然的にアートに寄ってくる感じがありますね。ヒップホップとかラッパーの人たちは「詩人」ですから、アートとの親和性はもともと高いですし、アートとの関わりの中で自分を拡張していくような印象がありますね。
有馬:僕が石巻に移住して5年経ちますが、石巻はいま3つのギャラリーが出来ました。今度は劇場ができる予定です。いわゆる演劇の人たちがこちらに寄ってくる感じなのですが、これはとても強いです。アートはマニアックな領域なので、やはり人は集まりにくい。演劇や映画などのエンターテインメントがあって、そこにアートもありますよ、というほうが絶対に強いしやりやすい。
そういえば、ちょうどいま隣の塩釜ではフォトフェスティバルが開催されていたり、志賀理江子さんというフォトグラファーの展示が石巻で行われていることもあって、石巻界隈の人の流れが凄い多いんですよ。写真という領域も同様のことが言えるでしょうね。
──街にアートをインストールするヒントは、アート以外の領域との連携にもありそうですね。本日はいろいろとヒントとなるお話ありがとうございました。